子どもの教育費は高額になることが多く、資金面で悩みを抱えている方もいるでしょう。
厚生労働省の調査によると、多くのひとり親家庭が子どもの教育・進学や家計に悩んでいます。教育・進学について悩んでいる世帯は、母子家庭・父子家庭ともに6割ほどを占めており、家計については母子家庭の約5割、父子家庭の約4割が悩んでいます。
子どもの教育費のために利用できるものとして教育ローンがあり、中にはひとり親家庭向けの優遇措置が設けられているものもあります。本記事では、ひとり親家庭が利用できる教育ローンのメリット・デメリット、教育ローンを選ぶ際のポイントを解説します。
参照:子ども家庭庁「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果」
目次
ひとり親家庭(母子・父子家庭)向けの主な教育ローン
ひとり親家庭(母子・父子家庭)向けの教育ローンとして、主に次の3つがあります。
- 母子父子寡婦福祉資金貸付金制度
- 国の教育ローン
- 民間の教育ローン
下表は、それぞれの特徴やメリット・デメリットをまとめたものです。
それぞれのローンの詳細については、次節以降で解説していきます。
参照:日本政策金融公庫「サービスのご案内|教育一般貸付(国の教育ローン)」
参照:内閣府男女共同参画局「関連法令・制度一覧|母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」
【ひとり親家庭の教育ローン】母子父子寡婦福祉資金貸付金制度
ひとり親家庭(母子・父子家庭)が利用できる教育ローンとして、「母子父子寡婦福祉資金」があります。母子父子寡婦福祉資金貸付金制度は生活資金や住宅資金など12種類に分かれており、教育については「修学資金」や「就学支度資金」が該当します。
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度の概要
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度における「修学資金」は、授業料や書籍代、交通費などに活用できる資金です。また「就学支度資金」は、就学・修業するために必要な被服などの購入資金に活用できます。
参照:内閣府男女共同参画局「関連法令・制度一覧|母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度の「修学資金」と「就学支度資金」は、無利子での借り入れが可能です。返済期間は原則20年以内ですが、修学資金の「専修学校(一般課程)」の場合と就学支度資金の「修業」の場合は5年以内となっています。
なお、問い合わせや申請先はお住まいの自治体の福祉担当窓口です。詳細は自治体の担当窓口で確認してください。
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度(修学資金・就学支度資金)の貸付限度額
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度の修学資金と就学支度資金の貸付限度額を確認していきましょう。
参照:内閣府男女共同参画局「関連法令・制度一覧|母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」
修学資金は、親が借りる場合は子どもが連帯借受人となり、連帯保証人は不要です。子どもが借りる場合は親等が連帯保証人となります。
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度のメリット・デメリット
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度には、次のようなメリットがあります。
- 無利子
- 返済期間が長い
- 幅広い用途に利用可能
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度の金利は、無利子か低めに設定されているため、負担が軽減されます。なかでも教育ローンに該当する修学資金や就学支度資金は無利子なので、元金のみの返済で済みます。また、修学資金や就学支度資金の返済期間は、一部を除き原則20年以内となっており、無理なく返済をしていくことが可能です。 デメリットとして、奨学金やほかの公的貸付制度などとの併用が禁止されていることがあります。詳細は自治体により異なるため、お住まいの自治体の福祉担当窓口で確認してください。
【ひとり親家庭の教育ローン】国の教育ローン
「国の教育ローン」について、概要や利用条件、メリット・デメリットを解説します。
国の教育ローンの概要
概要 | |
借入限度額 | 350万円(※1) |
金利 | 固定年2.0%(※2※3) |
返済期間 | 18年以内 |
保証 | (公財)教育資金融資保証基金または連帯保証人のどちらか |
※1:一定の要件に該当する場合は子ども1人につき450万円まで可能
※2:2024年5月時点
※3:ひとり親家庭への優遇措置(通常の利率の▲0.4%)が適用された金利。
参照:日本政策金融公庫「サービスのご案内|教育一般貸付(国の教育ローン)|ご利用条件や金利・ご返済方法」
国の教育ローンは正式名称を「教育一般貸付」といい、2024年8月現在、日本政策金融公庫と沖縄振興開発金融公庫が取り扱っています。
2024年5月時点では固定金利が年2.4%で、民間の金融機関よりも低くおさえられています。固定金利なので、毎月の返済額が一定で計画的な返済がしやすいのが特徴です。さらに、ひとり親家庭には金利引き下げの優遇措置(通常の利率の▲0.4%)が設けられています。連帯保証人を立てられない場合は保証料が必要ですが、こちらもひとり親世帯に対しては優遇措置があります。
国の教育ローンの利用条件
国の教育ローンを利用できるのは、融資対象の学校に入学または在学する子どもの保護者で、一定の世帯年収(所得)条件を満たす方です。世帯年収(所得)は、扶養する子どもの人数に応じて異なります。
子どもの人数 | 世帯年収(所得)の上限額 |
1人 | 790万円(600万円)(※) |
2人 | 890万円(690万円)(※) |
3人 | 990万円(790万円) |
4人 | 1,090万円(890万円) |
5人 | 1,190万円(990万円) |
※子どもが2人以内で、一定の要件を満たす場合は990万円(790万円)に緩和
国の教育ローンの対象となる学校としては以下のようなものが挙げられます。
- 高等学校、高等専門学校、特別支援学校の高等部
- 大学、大学院(法科大学院、専門職大学院を含む)
- 短期大学
- 専修学校、各種学校
- 職業能力開発校などの教育施設
- 外国の高等学校、大学、大学院、短期大学、語学学校など
ただし、上記に該当していても対象とならないケースもあるため、利用を検討している場合は事前に確認しておきましょう。
参照:日本政策金融公庫「サービスのご案内|教育一般貸付(国の教育ローン)|ご利用条件や金利・ご返済方法」
国の教育ローンのメリット・デメリット
国の教育ローンには、ひとり親家庭(母子・父子家庭)にとって優遇措置を受けられるなどのメリットもありますが、気を付けたいデメリットもあります。
【国の教育ローンのメリット】
- 金利が低め
- 返済期間が長い
- 入学前から利用可能
- 奨学金との併用が可能
民間の教育ローンの金利は年2~5%に設定されている場合が多いですが、国の教育ローンは年2.4%(※)で、さらにひとり親世帯は-0.4%の金利優遇が受けられます。返済期間は18年以内と長期返済が可能ですが、返済期間が長引くと支払利息が増える点には注意が必要です。
※2024年5月時点の情報となり、最新の情報とは異なる場合がございます。
【国の教育ローンのデメリット】
- 借入限度額が低め
- 機関保証か人的保証が必要
- 世帯年収に上限がある
国の教育ローンのデメリットとして、借入限度額は原則350万円まで(一定の条件を満たす場合は450万円まで)と低めに設定されている点が挙げられます。民間の教育ローンでは500万円や1,000万円を融資上限額としているところが多く、3,000万円まで借り入れ可能な金融機関もあります。
機関保証か人的保証が必要となっており、連帯保証人を立てられない場合は、公益財団法人教育資金融資保証基金の保証制度を利用し、保証料を負担する必要があります。
国の教育ローンのひとり親家庭優遇措置
国の教育ローンでは、ひとり親家庭(母子・父子家庭)に対し「金利」と「保証料」において優遇措置が設けられています。
項目 | 優遇内容 |
金利 | 原則より-0.4% |
保証料の目安 ※借入金額「100万円」返済期間「10年」の場合(2024年8月1日現在) | 利息のみの支払期間なし:2万5,826円 利息のみの支払期間2年:3万991円 利息のみの支払期間4年:3万6,156円 (通常の2分の1) |
参照:日本政策金融公庫「令和6年度版 国の教育ローンまるわかり本」
金利は固定金利で、2024年5月時点では年2.4%が原則ですが、ひとり親家庭には優遇措置が適用され、金利年2.0%での借り入れが可能です。連帯保証人を立てられない場合に利用できる公益財団法人教育資金融資保証基金の保証制度は、保証料が通常の2分の1に軽減されます。
【ひとり親家庭の教育ローン】民間の教育ローン
信用金庫や銀行など多くの民間金融機関でも教育ローンが取り扱われており、中にはひとり親世帯を対象にしたローン商品もあります。
民間の教育ローンには世帯年収による利用制限がなく、幅広い世帯が利用可能です。借入金の使途の自由度が高く、対象となる学校の範囲が広いといった特徴もあります。また、国の教育ローンは原則350万円が借入限度額となっていますが、民間の金融機関では1,000万円など高額の借り入れも可能です。
入学前からでも保証人が不要で融資を受けられるため、申し込みのハードルが低いといえるでしょう。
民間の金融機関の教育ローンは国の教育ローンよりも金利が高めで、2〜5%のところが多くなっています。また、返済期間も短い傾向があります。
ひとり親家庭で教育ローンを選ぶ際のポイント
ひとり親家庭(母子・父子家庭)で教育ローンを選ぶ際には、以下のポイントに注意して検討しましょう。
- 金利や優遇制度
- 保証人の要否
- 返済期間や返済額
- ほかの支援制度との併用
教育ローンの金利は借入先によって異なるため、十分に比較することが大切です。
民間の金融機関の教育ローンでは、保証人不要で借り入れ可能なところがほとんどです。世帯年収による利用制限もないため、申し込みのハードルが低く、学費以外にもさまざまな目的に利用可能です。
返済期間や毎回の返済額は、金融機関により異なります。民間の教育ローンは、国の教育ローンと比べて返済期間が短い傾向にあります。
返済期間が短い場合は毎回の返済額が高額になる可能性があるため、教育ローンを選ぶ際には返済期間と返済額もよくチェックしておくとよいでしょう。
奨学金やほかの公的貸付制度などとの併用が可能か、ひとり親家庭への優遇制度はあるかも事前に確認し、制度を上手に利用しながら教育ローンを検討してみましょう。
教育ローン以外のひとり親家庭で利用できる支援制度
ここまでご紹介してきた以外にも、ひとり親家庭(母子・父子家庭)で利用できる支援制度があります。
【独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の奨学金】
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の奨学金には、「貸与型」と「給付型」があり、貸与型には無利子の「第一種奨学金」と有利子の「第二種奨学金」があります。条件を満たす場合は、第一種と第二種の併用も可能です。
参照:独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「貸与奨学金(返済必要)」
参照:独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「給付奨学金(返済不要)」
【高校生等奨学給付金】
高校生等奨学給付金は、進学する意志のある高校生等が安心して教育を受けられるよう、低所得世帯の教育費の負担を軽減するための制度です。教科書費や教材費、通学用品費、修学旅行費など、授業料以外の教育費等に活用できます。
参照:文部科学省「高校生等への修学支援|高校生等奨学給付金」
【高等教育の修学支援新制度】
家庭の経済状況にかかわらず、学習意欲ある子どもの進学を支援するため、授業料・入学金の減免や、給付型奨学金の支給により、大学や短大などの学費を無償化する制度です。世帯年収や資産の要件を満たしていることと、学ぶ意欲を持った学生であることの2つの要件を満たす学生全員が支援を受けられます。
ひとり親家庭(母子・父子家庭)向けの教育ローンを活用しよう
母子家庭や父子家庭といったひとり親家庭にとって、子どもの進学費用は大きな悩みの種です。教育資金に困ったときは、ひとり親家庭に優遇措置のある教育ローンを上手に活用しましょう。
国の教育ローンは、低金利で借り入れ可能なため、ひとり親家庭の子どもの進学を後押ししてくれます。奨学金やほかの公的貸付制度と併用することで、さらに充実した支援を受けることも可能です。自治体によっては独自の支援を行っているところもあるため、詳しくはお住まいの自治体の福祉担当窓口で確認してみましょう。
また、民間の教育ローンの中にはひとり親世帯を対象にしたローン商品もあり、世帯年収による制限がなく、借入限度額が高いというメリットもあります。借り入れを検討している場合は、信用金庫などの金融機関にも相談してみましょう。