これから出産する方にとって、出産や育児にかかる費用は大きな心配事の一つですよね。正常分娩にかかる費用は、公的医療保険(以下、健康保険)の対象にならず全額自己負担ってことをご存じですか?昨今、国では健康保険の対象にする議論が始まっていますが、保険のきかない今、頼りになるのは「もらえるお金」です。この記事では、妊娠・出産・育児に際してかかる費用、もらえるお金をまとめ、もし出産費用が足りない時にできる対策をお伝えします。
目次
妊娠中にもらえるお金
赤ちゃんが生まれるまでの約10ヵ月間、妊婦や赤ちゃんの健康状態を確認するために、合計14回の妊婦健診を受けることが推奨されていますが、健診代に健康保険は適用されません。また、妊娠トラブルで長期入院となり多額の医療費がかかり、会社を休まざるを得ないこともあり得ます。そのほか、マタニティ服代やベビー用品代などもあり、妊娠中には色々お金がかかりますが、もらえるお金や使える制度も多くあります。
妊婦健診補助券
妊婦健診の費用は自己負担ですが、すべての自治体が公費助成を行っており、妊娠届を出すと14回分の「妊婦健診補助券」をもらえます。自治体によって記載されている検査項目が無料となる場合や、記載されている補助額を負担してくれる場合があります。補助額や利用回数は自治体ごとに異なりますので、住んでいる地域の制度を確認しましょう。妊娠届を出す前にかかる初診費用や、補助券だけでは不足する健診費、補助券対象外の検査費用は自己負担となり、毎回の健診時に数千円などがかかる可能性はあります。
高額療養費制度
妊娠中に切迫早産や妊娠高血圧症候群などを発症し入院や手術が必要となった場合、医療費が高額になることがあります。こうした時は、加入している健康保険の「高額療養費制度」の申請をすれば、1ヵ月の医療費における自己負担額を超えた分の還付を受けることができます。窓口で自己負担を限度額までにするには、従来「限度額適用認定証」の取得が必要でしたが、現在はマイナンバーカードを保険証として登録した「マイナ保険証」で受診でき、準備が不要になりました。(オンライン資格システムを導入している医療機関のみ対応)。
妊婦健診費用、入院中の食事代や差額ベッド代など健康保険の対象外となる費用は、高額療養費の対象となる費用には含まれません。
傷病手当金
会社員や公務員の方が妊娠中、つわりや切迫早産などで仕事を休まざるを得ない場合、健康保険の「傷病手当金」の支給を受けられます。これは、病気やけがで働けなくなったときに収入の一部を補てんしてくれる制度で、連続休業4日目から支給され、金額は給与の約3分の2です。出産予定日が近づき、傷病手当金を受け取る対象となる療養で休業したまま産休入りした場合は、産休開始日の前日が療養期間の終了日となり、傷病手当金は支給停止となります(そのまま出産手当金の支給対象期間に入ります)。
出産時にもらえるお金
出産時にかかるお金は主に分娩・出産費用です。厚生労働省のデータによると、令和4年度の正常分娩における分娩・出産費用(入院料・分娩料・新生児管理保育料・検査・薬剤料・処置・手当料等)の平均金額は約48万円でした。出産費用は地域によって大きく異なり、最も高い東京都(約61万円)と最も低い熊本県(約36万円)には25万円もの差があり、病院によっても異なります。前述のとおり、正常分娩の場合は全額自己負担ですが、帝王切開の場合は健康保険の対象となり3割負担となります。もらえるお金には次のものがあります。
出産育児一時金
出産育児一時金は、妊娠4ヵ月以上で出産した場合にもらえる給付金です。本人または扶養者が加入する健康保険に申請すると、赤ちゃん一人につき原則50万円(※)が支給されます。また多くの病院では、出産費用を一時的に立て替えることなく、出産育児一時金が健康保険から直接病院に支払われる「直接支払制度」(または病院が代理で受け取る「受取代理制度」)を利用できるため、大きな負担は避けられます。直接支払制度か受取代理制度なのか、またはどちらの制度も使わないのかによって申請手続きの流れは異なるため、事前に医療機関や、勤務先など加入している健康保険に相談すると良いでしょう。
※産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産、または、産科医療補償制度に加入の医療機関等で、妊娠週数22週未満で出産した場合は48.8万円
出産手当金
出産した方が会社員の場合は、健康保険から「出産手当金」を受け取ることができます。これは産休中に給与の代わりに支給されるもので、出産日(出産が予定日より後になった場合は出産予定日)以前42日から、出産日の翌日以降56日を対象に、給与の約3分の2相当が支給されます。ただし、会社を休み給与が支払われなかった期間のみが対象です。産前と産後など複数回に分けて申請することも可能です。
自治体独自の助成制度
自治体ごとに独自の助成金や補助金がある場合もあります。例えば、東京都港区では、出産費用が出産育児一時金を超えた場合について、区内在住者に対して、赤ちゃん1人の場合最大31万円の助成金を支給しています。妊娠中に、住んでいる自治体の情報を確認しておくと良いでしょう。
医療費控除
出産にかかる自己負担費用を含めた年間の医療費総額が10万円(所得の合計額が200万円までの人は所得の5%)を超えた場合に、その超えた分を「医療費控除」として所得から差し引いて税金を減らせる制度です。医療費控除の対象となる出産に関する費用例は次のとおりです。
<医療費控除の対象となる出産に関する費用例>
・妊婦健診や検査にかかった自己負担費用・通院費用
・出産で入院する際に利用したタクシー代
・妊娠中または出産時の入院費用や手術代(身の回り品代や差額ベッド料金は対象外)
妊娠中から領収書をきちんと保管しておき、確定申告時に申請しましょう。
育児中にもらえるお金
出産し退院したあとは新しい家族を迎えての生活が始まります。育児休業を取ると収入は減りますが、休んだ期間に応じて「育児休業給付金」を受けられますし、出産後8週間以内にパパが育児休業を取れば「出生時育児休業給付金」も受けられます。そのほか、ミルクやおむつ、新生児服などの養育費や教育費に充てられる「児童手当」を、生まれてから高校卒業まで誰でも受けとることができます。それぞれの詳細を見ていきましょう。
育児休業給付の主な受給要件
雇用保険から支給される育児休業給付には、子どもが原則1歳になるまでパパ・ママが取得した育休期間中にもらえる「育児休業給付金」と、子どもの出生から8週間以内にパパが育休(産後パパ育休)を取った場合にもらえる「出生時育児休業給付金」があります。
育児休業給付金の主な受給要件は次のとおりです。
・1歳未満の子どもを養育するために育児休業を取得している(2回まで分割取得可)
・育児休業開始日前2年間に、雇用保険に加入していた期間が12ヵ月以上ある
・子どもが1歳6ヵ月に達するまでに労働契約期間が満了することが明らかでない
・休業期間中の就業日数が月10日以下であること
出生時育児休業給付金の主な受給要件は次のとおりです。
・出産後8週間を経過する日の翌日までの期間内に、4週間以内の産後パパ育休を取得している(2回まで分割取得可)
・育児休業開始日前2年間に、雇用保険に加入していた期間が12ヵ月以上ある
・出産後8週間を経過する日の翌日から6ヵ月を経過する日までに労働契約期間が満了することが明らかでない
・休業期間中の就業日数が月10日以下であること
育児休業給付金はどのくらいもらえるの?
(出生時)育児休業給付金は、最初の6ヵ月間は給与の67%が支給され、その後は50%が支給されます。この給付金は、原則子どもが1歳(パパ・ママ育休プラス制度を利用する場合は1歳2ヵ月)になるまで受け取れますが、保育園に入れないなど事情がある場合は最大2歳まで延長することも可能です。
児童手当ってどのくらいもらえるの?
子どもが生まれたら、現住所の市区町村(公務員の場合は勤務先)に「認定請求書」を提出し認定を受ければ、原則申請月翌月分から高校を卒業する(※)まで児童手当を受け取れます。所得制限はありません。
※18歳に達する日以後の最初の3月31日
児童手当の金額は以下のとおりです。なお「第3子以降」とは、22歳の年度末までの子どもをカウントした場合の3人目以降を指します。
児童の年齢 | 児童手当の額(一人あたり月額) |
3歳未満 | 15,000円(第3子以降は30,000円) |
3歳以上高校生年代まで | 10,000円(第3子以降は30,000円) |
※高校生年代とは、18歳到達後の最初の年度末までを指す
児童手当を使わずに貯めると、第1子、第2子の場合、高校卒業時に総額234万~245万円(誕生日によって受け取る総額が異なる)となります。
出産費用が足りない時の対処方法とは
もらえるお金や制度があっても自己負担をゼロにすることは難しいもの。出産費用が足りない場合はどうすればよいでしょうか。対処方法をご紹介します。
出産費貸付制度を活用する
妊娠中の入院費用など、出産育児一時金が支給されるまでの間に大きなお金が必要な場合は、無利子で貸付けを受けられる健康保険の「出産費貸付制度」を利用できます。借りられる金額は、出産育児一時金支給見込額の8割相当額までです。返済には一時金がそのまま充てられ、残金があれば後日振り込まれます。
クレジットカードを利用できる病院で出産する
クレジットカード決済に対応している病院で出産すれば、支払期限を1ヵ月ほど先送りにすることが可能です。引き落とし日までにお金を工面する必要があること、分割払いやリボ払いにすると手数料がかかることに注意が必要です。
ローンを活用する
色々な制度を利用してもどうしても足りない場合は、ローンを活用することも選択肢のひとつです。ローンを選ぶ際は、できるだけ低金利のローンにするためにも使いみちが限定されているものが良いでしょう。たとえば信用金庫が提供している「子育て応援プラン」は、使いみちが出産費用や教育費、子どもの通院費等の利用に限られ、金利も銀行のフリーローンやカードローンなどと比べて低水準です。無理のない返済計画を立ててから借りるようにしましょう。
まとめ
妊娠から子育てまで、子どもができると色々なお金がかかりますが、お伝えした助成金や手当などを活用することで負担を大きく軽減できます。損することのないよう、助成や手当を受けられる制度をしっかりと把握して、手続きを忘れないようにしましょう。